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小森早江子,李文平(2019)「日本語学習者の構文構造に関する研究」『人文学部研究論集』42:13-27..pdf

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13 日本語学習者の構文構造に関する研究 小 森 早 江 子 *・李 1 文 平 ** はじめに VACs(Verb-Argument Constructions)は,構文構造(あるいは述語構造)のことである。 文の中心となる動詞がどのような語と結びつき,どのような関係にあるのかを知る手がかり として,文の構文構造を研究するもので,近年注目を集めている。 本研究の目的は,日本語学習者の構文構造の知識を VACs の枠組みで調査し,学習者の構 文構造使用の傾向は,母語話者の構文構造使用の頻度と相関があるかどうかを調べることで ある。VACs について,これまで英語では第一言語,第二言語とも,さまざまな研究がおこ なわれてきたが,日本語では研究が少ない。本稿では Ellis et al.(2014)の理論に基づいて, 現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)と上級日本語学習者のデータである YNU 書き 言葉コーパス(金澤編 2014)を使って,日本語学習者の構文構造を分析し,日本語母語話 者と学習者の産出する構文構造にはどのような共通点や相違点があるのか調査する。 2 先行研究 VACs に関する英語を対象とした先行研究は,英語母語話者の VACs の研究にはじまり, さらに英語学習者の研究についても報告されている。ここでは,英語の VACs の先行研究と して,Ellis et al.(2014)と Römer et al.(2014)をとりあげ,英語母語話者と学習者に関す る研究でどのようなことがわかっているかを踏まえて,日本語学習者の作文データをもとに 日本語の構文構造を分析する。 * 人文学部教授 第二言語習得,日本語教育 (中国)大連海事大学外国語学院日本語学部准教授 第二言語習得,計量言語学 本研究報告は,2017 年 3 月 26 日に米国イリノイ州シカゴ市で開催されたアメリカ応用言語学会(AAAL 2017)での研究 発表(“Investigation of Verb-Argument Constructions in Japanese La and L2 Writings: Does L2 Speakersʼ VAC Knowledge Differ from L1ʼs? ” Komori, S. and Li, W.)をもとに大幅に加筆・修正したものである。 ** (1) 14 人文学部研究論集(第 42 号) 2.1 英語母語話者の VACs まず,Ellis et al.(2014)は,自由連想課題を用いて,動詞構文の調査をおこなった。具 体的には VACs のタイプとトークン頻度分布,動詞の偶発性,意味プロトタイプを調査した。 英語母語話者 1,285 人に対して,実験 1 では,動詞の部分の穴埋め課題をおこなった。具体 的には,穴埋めの抜けている部分に入る動詞として一番先に頭に思い浮かぶものを 1 つだ け答えてもらった。この方法で,「V across N」などの構文に使われる V の部分にあたる動 詞を調査し,約 1 億語の英語コーパスである British National Corpus(BNC)との相関関係 。 を調べた結果,17 の VACs(1)について,平均で 0.57 の相関があったと報告している(p.18) また,実験 2 は,1 分間に,できるだけ多く,穴埋め部分に入れることができる動詞を挙げ るという課題である。この課題では被験者一人ひとりの語彙知識を調べ,BNC との相関を 調べた結果,17 の VACs について,平均で 0.51 の相関があることがわかった(p.25) 。実験 1 と 2 の結果から得られた動詞を BNC から抽出した意味ネットワークと比較した結果,1) 動詞の頻度,2)VAC に対する動詞の偶発性,3)動詞はプロトタイプの影響を受けることが わかったと報告している。 2.2 英語学習者の VACs Römer et al.(2014)では,英語母語話者とドイツ語を母語とする上級レベル英語学習者 に関して VACs の使用を比較した。まず英語大規模コーパスである BNC を使って,英語母 語話者の動詞構造に関する知識を予測し,その予測を心理言語学的な実験をおこなって検証 した。結果として,20 の VACs の調査において,学習者は概ね動詞パターンについての実 際の使用に関する構造の知識をもっており,母語話者と学習者は多くの共通した動詞を回答 していることから,母語話者と同様に学習者の心的辞書にも構文構造(VACs)の知識が存 在していることを示す結果となったと報告している。Römer et al.(2014)は,同時に別の 母語の英語の英語学習者による検証も必要であると指摘している。 英語は SVO・SVC のように動詞のあとに目的語や補語がくる語順の言語であるのに対し て,日本語は,一般に SOV のような述部が文末にくる語順で使われる。日本語は述部が文 の最後に来る構造をもっており英語とは統語的に異なる構文を基本とする言語であるため, 上記のような英語を対象とした VACs の研究が日本語にもそのままあてはまるとは限らな い。また,日本語は,膠着語であるため,目的語や場所を示す「ヲ」や「ニ」などの助詞を 用いる。日本語の VACs 分析は,動詞と共起する名詞とともに助詞もあわせて分析する必要 がある。そこで本研究では,Ellis et al.(2014)による英語に関する研究を踏まえ,まず日 本語の動詞構文構造について,書き言葉コーパスを使って分析を試みる。 (2) 日本語学習者の構文構造に関する研究 3 15 研究課題 今回は,日本語の構文使用を実験により産出させるデータではなく,作文コーパスによる 産出データを使って調査する。分析には,現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)と 上級日本語学習者のデータである YNU 書き言葉コーパス(金澤 2014)を使用する。 本研究の研究課題は,第二言語(学習者)の構文構造使用の傾向は,第一言語(母語)の 構文構造使用の頻度と相関があるかどうかである。 4 研究方法 4.1 対象データ(BCCWJ と YNU)について 日本語母語話者と学習者の VACs の知識を比較するために,現代日本語書き言葉均衡コーパ スと日本語書き言葉コーパスを対象に使用された動詞と共起する名詞および助詞を分析する。 4.1.1 現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ) 現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)は,国立国語研究所が現代日本語の書き言 葉の全体像を把握するために構築したコーパスである。現在使われている日本語について, 書籍,雑誌,新聞,白書,ブログ,ネット掲示板,教科書,法律などの 13 のジャンルで合 わせて約 1 億語のデータを収録し公開しているものである。 BCCWJ の基礎的データとして,短単位の異なり語数(タイプ)と延べ語数(トークン) を表 1 に示す。 表1 BCCWJ の短単位異なり語数(タイプ)と延べ語数(トークン) BCCWJ 4.1.2 短単位異なり語数(タイプ) 185,136 短単位延べ語数(トークン) 104,612,423 日本語書き言葉コーパス(YNU) 日本語書き言葉コーパス(YNU)は,日本語母語話者と中国語と韓国語を母語とする上 級レベルの日本語学習者(各 30 人ずつ)の作文コーパスである。本研究では,金澤(2014) の CD-ROM 版日本語書き言葉コーパス(YNU)に収録されているデータのうち,日本語母 語話者 30 人と中国語母語の上級学習者 30 人が書いた 12 種類のタスクの作文データを使用 (3) 16 人文学部研究論集(第 42 号) 3) ( し,動詞構文パターン分析をおこなう(2) 。 今回対象とした中国語を母語とする日本語学習者 30 人は,すべて上級レベルの学習者で あるが,さらに下位分類としてレベル別に High(H) ,Medium(M) ,Low(L)の 3 レベル に分かれており,今回は 30 人の上級学習者を 1 つのグループとして分析するだけでなく,3 つのレベル別でも比較分析した。3 つのレベル分けは,3 人の評価者が各タスクについて,1) タスクの達成,2)詳細さ・正確さ,3)読み手配慮,4)体裁・文体の 4 項目をそれぞれ評 価した。その後,3 人の評価者は話し合いによって最終的な評価点を決め,その結果に基づ いて 3 レベルに分けられたものである(金澤 2014,p.17,p.36) 。このため,H,M,L のレ ベル分けは,必ずしも統語の複雑性の度合いと一致するというわけではないので,構文の複 雑性の分析をおこなう際には注意が必要である。 表 2 と表 3 に YNU の日本語母語話者と中国語母語上級日本語学習者の基礎的なデータを 示す。 表 2 YNU の日本語母語話者と中国語母語上級学習者の短単位異なり語数(タイプ)と延べ語数(トークン) 母語話者(30 人) 中国語母語上級学習者(30 人) 短単位異なり語数(タイプ) 3,713 4,113 短単位延べ語数(トークン) 68,126 76,737 表3 中国語母語上級学習者のレベル別短単位異なり語数(タイプ)と延べ語数(トークン) H(10 人) M(10 人) L(10 人) 短単位異なり語数(タイプ) 2,500 2,500 2,123 短単位延べ語数(トークン) 27,904 26,516 22,317 4.2 分析方法 分析方法として,BCCWJ と YNU コーパスに対して,構文解析をおこなって,それぞれの 特徴を調査した。分析手順としては,まず,それぞれのコーパスデータについて,Cabocha 0.69 と IPADic 2.7.0 を用いて構文解析をおこなって,動詞と共起する助詞および名詞を抽出 し,集計した。最も多く使用された「N を V」構文について,さらに詳しく分析をおこなった。 5 研究結果 どのような構文がどれぐらいの頻度で使われているかを知るために,コーパスごとに上位 10 構文を表とグラフで示したあと,最も多く使用された「N を V」構文について,どのよ (4) 日本語学習者の構文構造に関する研究 17 うな V が使用されたのか,さらに比較分析する。 5.1 全体の結果 表 4 とグラフ 1 は,BCCWJ で使われた動詞構文のタイプ別頻度を示したものである。 「本 を読む」のような「N を V」のパターンが最も多いことがわかる。 表 4 BCCWJ における上位 10 構文 構文 頻度 1 NをV 1,438,928 2 NにV 1,039,428 3 NがV 769,815 4 NはV 364,334 5 NでV 215,327 6 NにNをV 189,154 7 NもV 186,911 8 NとV 165,372 9 NはNにV 151,897 10 NはNをV 150,760 ± ² ³ ´ µ ¶ · ¸ ¹ ±° グラフ 1 BCCWJ における上位 10 構文の頻度 表 5 とグラフ 2 は,母語話者と中国語母語上級学習者のそれぞれの動詞構文のタイプ別頻 度を示した。これをみると,母語話者と学習者が多く使う動詞構文は,上位 10 のうち「N (5) 18 人文学部研究論集(第 42 号) の V」と「N は N を V」を除く,9 項目が共通しており,上位 8 項目までは順位も同様であ ることから,上級学習者は母語話者と同じような動詞構文を使用する傾向が読み取れる。 また,表 4 の大規模コーパスの結果と比べると,上位 10 構文のうち,「N の V」以外は, 共通しており,1 位から 4 位までは順位も同じである。 表5 YNU における上位 10 構文 母語話者 構文 学習者 頻度 構文 頻度 1 NをV 945 NをV 1,098 2 NにV 565 NにV 664 3 NがV 522 NがV 560 4 NはV 278 NはV 298 5 NもV 198 NもV 187 6 NでV 157 NでV 155 7 NにNをV 112 NにNを 154 8 NはNに 103 NはNにV 119 9 NのV 68 NとV 103 10 NとV 65 NはNをV 100 ± ² ³ ´ µ ¶ · ¸ ¹ ±° グラフ 2 YNU における上位 10 構文と使用頻度 5.2 「N を V」の分析 ここでは,BCCWJ と YNU で最も多く使われた「N を V」構文について詳しく分析する。 YNU の母語話者と学習者の作文に現れた「N を V」構文と BCCWJ との比較分析をおこなっ た。それぞれの動詞の頻度を BCCWJ の頻度と相関を算出し,図で示す。BCCWJ と YNU の 中国語母語上級学習者 30 人のデータの「N を V」における動詞の使用頻度の相関は,r=0.579 (6) 19 日本語学習者の構文構造に関する研究 で中程度の相関があることがわかった。同様に BCCWJ と YNU の日本語母語話者 30 人との 相関も,r=0.546 で中程度の相関であった。 表 6 は,「N を V」構文で YNU の母語話者と学習者に共通して使われた 32 動詞のリスト と頻度である。 表 6 「N を V」構文に共通して使われた 32 動詞 動詞 BCCWJ YNU 日本語 母語話者 YNU 学習者 H YNU 学習者 M YNU 学習者 L 1 する 77,763 99 17 11 12 2 見る 38,689 35 17 14 4 3 持つ 20,517 10 8 12 3 4 受ける 18,394 3 1 1 3 5 使う 16,786 21 4 8 4 6 考える 13,227 10 2 7 6 7 聞く 10,449 21 7 9 9 8 作る 9,249 17 10 11 6 9 出す 8,298 3 1 3 8 10 やる 7,036 15 2 2 5 11 入れる 6,789 24 20 13 4 12 買う 6,011 2 1 1 1 13 取る 5,872 2 3 3 5 14 利用する 5,798 4 3 3 4 15 読む 5,512 11 7 5 3 16 書く 5,465 21 14 19 18 17 食べる 5,209 10 2 2 4 18 選ぶ 4,473 1 2 1 3 19 待つ 3,917 1 4 4 6 20 探す 3,426 15 5 1 1 21 送る 2,528 6 3 3 3 22 紹介する 2,026 5 3 2 1 23 もらう 1,838 2 2 4 2 24 学ぶ 1,726 4 1 3 1 25 借りる 1,670 4 6 5 3 26 離れる 1,555 3 1 1 2 27 増やす 1,414 14 4 8 3 28 代表する 1,375 5 1 2 1 29 務める 746 3 1 1 1 30 祈る 717 9 1 1 1 31 貸す 618 3 6 2 2 32 飼う 599 1 5 4 3 図 1 は,BCCWJ と上級学習者が「N を V」構文で使用した動詞の数をプロットしたもの (7) 20 人文学部研究論集(第 42 号) である。BCCWJ と比較して YNU はコーパス規模が小さいため,直接比較できない。対数 (log) をとって示した。図 2 は,図 1 と同様に,BCCWJ と日本語母語話者が「N を V」構文で使 用した動詞の数をプロットしたものである。 さらに,BCCWJ と学習者の 3 つのレベルと BCCWJ のプロットは,図 3 から図 5 に示す。 それぞれ BCCWJ との相関は,H は r=0.477,M は r=0.477,L は r=0.592 で,いずれも中 程度の相関となった。 図1 図3 BCCWJ と学習者の使用動詞 図2 BCCWJ と H の使用動詞 BCCWJ と母語話者の使用動詞 図4 (8) BCCWJ と M の使用動詞 日本語学習者の構文構造に関する研究 図5 21 BCCWJ と L の使用動詞 図 6 は,YNU について学習者と母語話者の使用動詞をプロットしたものである。両者の 相関は,r=0.608 で中程度の相関であった。 図6 学習者と母語話者の使用動詞 図 2 から図 5 には図の下のほう,つまり値が 0 のあたりにたくさんの動詞がみられる。こ れは各グループに共通の動詞が少ないことを示している。しかし,図 6 に示したように母語 話者と学習者には共通の動詞が多くあった。学習者の 3 つのレベルを合わせれば共通の動詞 がみられるが,個別のレベルでみると共通の動詞は少ないことを表している。 先行研究で紹介した Römer et al.(2014)では, 「V across N」の構文において,ドイツ語 を母語とする英語学習者の実験データと大規模コーパス(BNC)を比較したところ,r=0.884 と高い相関を示した。英語母語話者の実験データと BNC との比較では,r=0.633 と中程度 の相関であったと報告されている。英語母語話者の実験データよりドイツ語母語英語学習者 のほうが,BNC との相関が高い理由の 1 つとして,実験データの被験者が主にアメリカ英 (9) 22 人文学部研究論集(第 42 号) 語話者であるのに対して,BNC はイギリス英語であるためではないかと説明している。「V about N」の構造では, ドイツ語母語英語学習者は r=0.884 に対して,英語母語話者は r=0.881 で両者とも高い相関があった。このことから, 「V across N」で英語母語話者よりドイツ語母 語英語学習者の相関が高かった理由は,英語母語話者がアメリカ英語話者だったことという よりは,across と about と想起する動詞の範囲の違いに関係するのではないかとも考えられ る。さらに詳しい分析が必要であろう。日本語では,今回の調査では,「N を V」のみ分析 対象としたが,ほかの構文についても調べる必要がある。 5.3 YNU における「N を V」構文の母語話者と学習者の比較 ここでは,YNU データにおける具体的な動詞と名詞の頻度をみることで日本語母語話者 と学習者を比較する。 「N を V」構文の結果について,タイプとトークン比を,表 7 に示す。 表 7 「N を V」の母語話者と学習者比較 母語話者 学習者 タイプ トークン タイプ トークン 673 945 769 1,098 TTR=0.71 TTR=0.70 さらに, 「N を V」の使用数のタイプとトークンについて,学習者を 3 つのレベル別(H, M,L)に分けた結果を表 8 に示す。母語話者 30 人に対して,学習者の 3 レベルの人数はそ れぞれ 10 人ずつであるため,ここではタイプとトークンの比率を Guirand Index(GI)とい う多様性を表す指標を用いて示した。結果は, 学習者の GI 値は,母語話者と比較して小さく, また学習レベルが上がるとともに大きくなっており,L → M → H の順にレベルが上がるに 伴って「N を V」構文の使用も増える傾向がみられる。 表 8 「N を V」のレベル別比較 H 母語話者 M L タイプ トークン タイプ トークン タイプ トークン タイプ トークン 673 945 320 394 318 405 238 299 GI=21.89 GI=16.12 GI=15.80 GI=13.76 表 9 は,「N を V」構文について,3 つの学習者レベルで母語話者とどのくらい語彙が共 通しているかを調べた結果である。H グループと M グループでは,ほぼ同数であるが,L グループは上位 2 グループより母語話者と共通する語彙項目が少ないことがわかる。 (10) 23 日本語学習者の構文構造に関する研究 表 9 「N を V」における母語話者と共通語彙項目 H M L 53 55 40 YNU の母語話者と学習者が「N を V」構文において,どのような動詞と名詞を使用した のかを詳しく観察するために,表 10 に「N を V」の上位 5 項目をリストした。 表 10「N を V」の表現上位 5 項目 H 母語話者 頻度 頻度 M 頻度 L 頻度 27 仕事をする 10 論文を書く 11 論文を書く 15 論文を書く 18 レポートを書く 6 仕事をする 8 金を増やす 6 車を呼ぶ 13 世話をする 5 牛を飼う 6 話を聞く 5 返信を待つ 11 機を織る 5 服を着る 5 返事を待つ 5 本を借りる 11 金を増やす 5 布を織る 4 牛を飼う 4 元気を出す 表 10 では,タスクごとに使用される語彙に偏りがみられる。たとえば,タスク 1 と 2 は, 「レポート作成のために図書を借りるメールを書く」という課題である。タスク 1 は面識の ない先生宛に出すもので,タスク 2 は,仲の良い友達に対するものである。テーマの影響が 大きいことは,たとえば,母語話者に 18 回使われた「レポートを書く」はすべてタスク 1 と 2 で使われたものであり,学習者では, 「論文を書く」が多く使われた。表 10 から,学習 者はどのレベルでも「論文を書く」を最も多く使用したが,母語話者にはこの表現はみられ ず,代わりに「レポートを書く」を多用することがわかった。これは日本語と中国語の両方 に「論文」という語彙が使われるが,中国語での意味は日本語の「論文」より広いため,レ ポートの意味でも「論文」という語彙が使われる。ここでは中国語の母語の影響が表れたと 考えられる。また, 七夕を説明するタスク 12 の課題で,母語話者は「機を織る」を用いるが, 学習者は「布を織る」と使っている。これも日本語母語話者は「機織り機を使って,布を紡 ぎだすこと」を「機を織る」というコロケーションで表現するが,中国語で「機」と「織る」 という語の結びつきはなく表現の偏りは母語の干渉であるといえる。 表 11 の上位 10 動詞をみると,日本語母語話者と学習者に共通する動詞は, 「する,書く, 聞く,作る」の 4 動詞で,レベル別にみると,日本語母語話者と H グループに共通する動詞 は 6(入れる,する,見る,書く,作る,聞く) ,M グループでは 7(書く,見る,入れる,する, 作る,聞く,使う) ,L グループでは 5(書く,する,聞く,作る,やる)あった。さらに, 共通する 4 動詞と共起する名詞をみると表 12 のように,たとえば, 「する」と共起する名詞 として, 「仕事」 , 「世話」 , 「アルバイト」が使われており,学習者も数は少ないが,母語話 者と同じような語彙を使うこと,上位レベルのほうが共通する名詞が多いことがわかる。 (11) 24 人文学部研究論集(第 42 号) 表 11 「N を V」の上位 10 動詞 N 頻度 H 動詞 頻度 M 動詞 頻度 動詞 L 頻度 動詞 99 する 20 入れる 19 書く 18 書く 35 見る 17 する 14 見る 12 する 24 入れる 17 見る 13 入れる 9 聞く 21 使う 14 書く 12 持つ 8 出す 21 書く 10 作る 11 する 7 呼ぶ 21 聞く 8 持つ 11 作る 6 待つ 18 見つける 7 読む 9 聞く 6 考える 17 織る 7 聞く 8 使う 6 17 作る 6 貸す 8 増やす 5 やる 15 やる 6 借りる 7 考える 5 借りる 作る 表 12 「N を V」の 4 動詞と共起する名詞およびその頻度 H(10 人) M(10 人) L(10 人) 動詞 母語話者(30 人) する 22 仕事 6 仕事 3 アルバイト 4 メール 15 世話 2 世話 2 生活 1 世話 9 代表 2 アルバイト 4 返事 3 生活 3 ゲーム 3 アルバイト 18 レポート 10 論文 11 論文 15 論文 1 文 1 手紙 2 手紙 1 レポート 1 書 2 レポート 1 日記 2 卒論 1 記事 1 本 書く 聞く 作る 6 それ 2 それ 6 話 5 こと 2 意見 1 意見 1 ラジオ 1 言葉 2 声 2 話 4 布 2 服 3 料理 3 橋 2 雑煮 1 織物 2 服 3 皮 2 服 2 皮 2 布 1 餃子 (12) 日本語学習者の構文構造に関する研究 6 25 考察 本稿の研究課題の「第二言語(学習者)の構文構造使用の傾向は,第一言語(母語)の構 文構造使用の頻度と相関があるか」について,学習者と母語話者の構文使用には中程度の相 関があることがわかった。今回対象とした YNU データの中国語母語上級日本語学習者は, 日本語母語話者と共通する構文構造の知識を多くもっていることがわかった。現代日本語書 き言葉均衡コーパス(BCCWJ)と上級学習者書き言葉コーパス(YNU)の相関および実際 に使われた「N を V」の動詞の相関分析の結果から,中国語母語上級学習者の構文構造の知 識は,使用動詞の種類や数には違いがみられたものの,母語話者の使用と重なる部分が多く, かけ離れた使用ではないことが観察できた。 さらに,3 つのレベルごとに作文データで比較したところ,最も多く使用された構文であ る「N を V」の動詞の種類や数では母語話者に比べて学習者の使用にはばらつきがあり,使 用数も限られていることがわかった。上級の 3 グループでは,レベルが上がるほど母語話者 の使用傾向に近づいており,H グループは数量としては少ないが,ほぼ同様の語彙使用が認 められたことから,VACs に関する知識は母語話者に近い。しかし L グループは,M グルー プより,また M グループは H グループより,種類も数も少なかったことから,まだ発達途 上の段階であるといえる。L → M → H という方向に徐々に母語話者の VACs 構文の使用へ と近づいている様子がうかがえた。まとめると,以下の 3 点が指摘できる。 1)NNS は上級になるとほぼ NS と同様の VACs が使えるようになる。 2)上級学習者のレベル間では,より高いレベルの H は,M と L より母語話者に近い VACs の構文知識をもっている。 3)上級レベルになると,NNS は NS と量的にあまり差がない。質的な違いがみられた。 しかし,今回の分析は,現代日本語書き言葉均衡コーパスと中国語母語日本語学習者の作 文コーパスを比較したもので,先行研究のような実験によるデータとの比較ではないため先 行研究の結果とは直接比較できない。日本語母語話者と学習者の動詞の知識について構文構 造(VACs)を分析するためには,日本語においても心理言語学的実験を実施して比較する 必要がある。また今回詳細な分析をおこなった動詞構文は最も多く使用された「N を V」の みであった。動詞構文とそれぞれの動詞についても詳しく分析する必要がある。 7 今後の課題 今回は,同じ条件で書かれた日本語母語話者と中国語母語上級日本語学習者の作文を比 較した。BCCWJ などの母語話者による大規模コーパスとの頻度の比較については, 「N を (13) 26 人文学部研究論集(第 42 号) V」構文のみおこなったが,そのほかの構文についても調べて,日本語母語話者と日本語学 習者の動詞構文に関する知識の全体像を調査する必要がある。また,今回の研究で使用した YNU は,12 のタスクによる書き言葉コーパスである。タスクにより,テーマ,使用する文体, 語彙などに偏りがみられた。課題による影響について検証が必要である。上級 NNS では NS と量的に差がみられなかった。別のコーパスでレベルによる違いがないか検証する必要があ るため,2018 年度から学習者と母語話者に同じ課題による作文データの収集を始めている。 上記のような点を踏まえて,Ellis et al.(2014)および Römer et al.(2014)でおこなった ように大規模コーパスとの比較検証とともに,L1 と L2 の心的辞書を調べる心理言語学的な 実験産出データによる検証が必要である。 注 (1) Ellis et al.(2014)に先立ち,Ellis and OʼDonnell(2011, 2012)でタイプとトークン分布の分析をお こない,20 の VACs が選定された。そのうち,Ellis et al.(2014)の実験文を作るのに向かない after, at, in の 3 語を除いた 17 の VACs について実験を実施した。 (2) 学習者のレベルについては,30 人のうち日本語能力試験(JLPT)の N1 合格者は 26 人,N2 合格者 は 3 人であった。 (3) 作文データのタスクには,12 種類ある。各タスクの作文テーマは,以下のとおりである。(金澤編 2014,p.53) 1 面識のない先生に図書を借りる 2 友人に図書を借りる 3 デジカメの販売台数に関するグラフを説明する 4 学長に奨学金増額の必要性を訴える 5 入院中の後輩に励ましの手紙を書く 6 市民病院の閉鎖について投書する 7 ゼミの先生に観光スポット・名物を紹介する 8 先輩に起こった出来事を友人に教える 9 広報紙で国の料理を紹介する 10 先生に早期英語教育についての意見を述べる 11 友人に早期英語教育についての意見を述べる 12 小学生新聞で七夕の物語を紹介する 参考文献 金澤裕之編(2014)『日本語教育のためのタスク別書き言葉コーパス』ひつじ書房 Ellis, N. and OʼDonnell, B. (2011) Robust Language Acquisition - an Emergent Consequence of Language as a (14) 27 日本語学習者の構文構造に関する研究 Complex Adaptive System. In L. Carlson, C. Hölscher and T. Shipley (Eds.), Proceedings of the 33rd Annual Conference of the Cognitive Science Society (pp. 3512―3517). Austin, TX: Cognitive Science Society. Ellis, N. and OʼDonnell, B. (2012) Statistical construction learning: Does a Zipfian problem space ensure robust language learning? in J. Rebuschat and J. Williams (Eds.), Statistical Learning and Language Acquisition. Berlin: Mouton de Gruyter. Ellis, N., OʼDonnell, B., and Römer, U. (2014) The processing of verb-argument constructions is sensitive to form, function, frequency, contingency, and prototypicality. Cognitive Linguistics, 25(1), 55―98. Römer, U., OʼDonnell, B., and Ellis, N. (2014) Using COBUILD grammar patterns for a large-scale analysis of verb-argument constructions: Exploring corpus data and speaker knowledge. In M. Charles, N. Groom, and L. Suganthi (eds.), Corpora, Grammar and Discourse: In honor of Susan Hunston. Amsterdam: John Benjamins. pp. 43―71. (2019 年 4 月 23 日 受理) (15)

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